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企業の健康経営を支援する『O:SLEEP(オースリープ)』

株式会社O:(オー) Founder/CEO 谷本 潤哉氏

睡眠不足は日常生活に支障をきたすだけでなく、集中力の低下が引き起こす生産性の低下、ひいては死亡リスクの高まりなど日本経済に多大な影響をもたらしている。少子高齢化時代に突入し、経済が低迷している今、睡眠不足は無視することのできない深刻な課題と言っても過言ではない。そんな国民病ともいえる睡眠不足に対して「体内時計」という切り口で健康を促進する社会の実現に挑戦するスタートアップに注目が集まっている。

― 健康を維持する上で欠かすことのできない“睡眠”

 働き方改革関連法が施行され、一人一人が業務時間中の生産性を向上させることがよりいっそう求められるようになり、経営視点から従業員の健康管理に対して積極的に取り組み、生産性と企業の成長につなげていくことが各社に求められるようになりました。食事改善や運動促進、メンタルヘルスサポートなど、さまざまな手法で従業員の健康増進に取り組む事例が増えてきていますが、中でも当社は健康を維持する上で欠かすことが出来ない“睡眠”に着目し、従業員の健康を睡眠から分析して業務中の生産性向上にもつなげる企業向けサービス『O:SLEEP(オースリープ)』の提供を通じて企業の健康経営を支援しています。

 『オースリープ』は、スマホを枕元に置いて就寝するだけで個々の睡眠時間や質を測定し、専用アプリでデータを管理することができます。また、専用アプリ上に設定してある簡単なアンケートに答えることで、その結果と蓄積されたデータを組み合わせてその日の睡眠を分析し、良質な睡眠をとるためのコーチングまで受けられる仕組みとなっています。導入企業はアプリから得た従業員の睡眠データをもとに、個人が特定できない形で部署・年代・性別・勤務体系などグループ単位の睡眠状態、メンタルヘルス状態、生産性の増減を可視化することが可能です。すでに「睡眠改善への意識が向上し、業務中のパフォーマンスにも効果が表れ始めた」「運動や食事による従業員の健康増進に比べ使用方法の手軽さからハードルが少なく、健康経営サポートのサービスの中でも取り入れやすい」「離職につながりかねないメンタルリスクの軽減に役立っている」といったうれしい評価をいただいていますが、現在は2週間分のデータを可視化できる仕様ですが、変化の速い時代においてスピーディかつ柔軟に対応できるよう、さらに細かい時間単位での数値化を検討しているところです。


―モーレツ広告マン時代の経験から着目した「体内時計」

 私は2011年に広告代理店に新卒で入社しました。ちょうどリーマンショックからの景気の持ち直しに世界中が奮起していた頃だったこともあり、次々と舞い込んでくる仕事に追われ立ち止まる暇もないような生活を送っていました。数多くの有名企業の仕事を手掛けながら経験を積み重ねることができる生活に誇りと充実感を抱いていましたが、度重なる体調不良や著しい集中力の低下――そういった状態にもかかわらず、仕事をこなさなければという精神的疲労も相まって、悪循環な健康状態に疑問と改善の必要性を感じていました。当時手掛けていたプロジェクトに区切りがついたところで、日常から離れた場所で本格的にリフレッシュするため思い切って無人島に出かけました。約2週間時計を持たずに、太陽が昇ると目覚め、沈むと眠る生活を送ったことで、驚くほどの爽快感に包まれたことを今でも覚えています。この体験を通じて「体内時計」に着目したというわけです。

 急速なITの進化によってあらゆる「便利」が進化しつつあるにもかかわらず、現代人はますます時間に縛られています。そこで、人間に本来備わっており、体のさまざまな生体リズムを調節している「体内時計」を新たな指標とし、人々がより豊かになる生き方を提案しようと考えました。まずは、1日の約3分の1の時間を占め、体内時計に最も影響を与えるとされる“睡眠”にフォーカスしたサービスの開発に着手し、睡眠障害や体内時計の臨床・研究を行う専門医や研究機関の協力を得て、『オースリープ』が完成しました。睡眠時間や浅さ・深さを可視化したデバイス、サービスはすでに乱立していますが、医学的な知見に基づいてコーチングまで行うものは、ほとんどないのが現状です。現時点で100点だとは思っていませんが、自身の過去の経験も活かし、UI/UXのデザインにとどまらず、ユーザーが体験するプロセス全体を視野に、使い続けたくなるサービスを設計しようと挑戦しています。


―Redefining Chrono『体内時計という、自分だけの時間に回帰しよう。』

 「体内時計」という言葉自体は広く知られていますが、その実体はまだ解明されていないといっても過言ではありません。しかし、2017年に3人のアメリカ人科学者が「サーカディアン・リズム(=体内時計)」を生み出す遺伝子とそのメカニズムを発見し、ノーベル生理学・医学賞を受賞しました。これを機に、体内時計を遺伝子レベルで解明する研究は進み、摂食行動、体温、ホルモン、血圧などを変動/調整するメカニズムまでも明らかになりつつあります。中でも睡眠に関しては、睡眠のリズムを崩すことで本来適切な睡眠により調節される体内時計が不規則となることで身体のさまざまな不調を招くほか、代謝低下、生活習慣病への罹患、精神疾患などの原因ともなることが明らかとなっています。日ごろから一定の睡眠リズムを意識することは、予防医学の観点から見ても効果的であるといえるのではないでしょうか。

 しかし、日本においては、この数十年、長時間労働をはじめとする睡眠不足の弊害を、組織内価値観からくる集団的意識によってうやむやにしてきた傾向があります。ある調査によると、日本はOECD29カ国の中で比較しても睡眠時間がワースト1~2を争うほど短いという結果が出ています。また、睡眠不足に起因する経済への影響がGDP比で最も深刻とされたのは日本であり、GDP比2.92%の損失が算出されています。睡眠を削ってまで一生懸命働いているはずが、なんとも皮肉な結果となっているわけです。

 今はまだ睡眠の重要性すら社会的に正しく認知されていない状況ですが、まずは睡眠を把握するところから始め、働きやすい社会を創りたいと考えています。そして、自分だけの時間である「体内時計」という新しい指標を通じて、人々がより健康で豊かに暮らせるような世の中にしたいと本気で考えています。ヒトと体内時計の関係は人間本来のあるべき姿を取り戻し、心身ともに健康的な生活を送るための第一歩となるはずです。


Founder/CEO 谷本 潤哉氏