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ロシア人学生起業家「黄金の国ジパング」が挑戦の舞台。

株式会社Like Pay 創業者 ヴォロシオフ・イーゴリ氏

 一般的に外国人が日本で起業することは諸外国に比べてハードルが高いといわれている。煩雑な事務手続き、商習慣、労働法の基準――。特に言葉に関しては大きく壁が立ちはだかるが、近年増加傾向にある外国人起業家たちにとって日本は「宝の山」、まさに「黄金の国ジパング」なのだという。ほかでもないイーゴリ・ヴォロシオフ氏の目にもジパングはミステリアスで魅力的に映った。日本が誇る「おもてなし文化」をはじめ、他いくつかの日本独自の文化をヒントに「宝の山」からビジネスの種を発見した一人だ。


―日本文化に魅せられて。どうしても日本に住んでみたかった。

 日本との出会いはモスクワ大学在学中にさかのぼります。第2外国語カリキュラムは通常ドイツ語、フランス語、スペイン語などヨーロッパ言語が一般的でしたが、せっかくなら何か違う言語を学びたいと思い、当時まだ選択肢になかった日本語コースを数人の友人らと新設したことがきっかけでした。在学中には日露学生フォーラムで初めて来日し、街並みの素晴らしさ、人々の温かさ、そして、おもてなし文化に感銘を受けたことを今でも覚えています。

 思い立ったら行動に移す性格のため、在学中に上智大学に約半年間留学し、日本語を中心に勉強しました。当時はヨット部に所属し、週末は江の島で合宿したことはとてもエキサイティングでいい思い出です。部員に外国人は僕しかいなかったので面白い経験もできましたし、みんな日本人と変わらない態度で接してくれたのでたくさんのいい仲間ができました。彼らとは今でも定期的に連絡を取り合っています。

 その後、モスクワ大学を卒業するため一度ロシアに戻り、卒業後の進路もモスクワにある日本企業に就職しようと決めていました。しかし、最終面接まで順調に進んでいたものの、日本に住んでみたいという想いが捨てきれずに最終面接を辞退し、東京大学大学院に進学を決めました。大学から合格通知が届いたときは思わず「やったー!」と声を上げました(笑)


―ニッポンでの発見

 僕にとって日本での生活は色々発見があって本当に面白いです。特に印象深いものとしては三つ。一つ目は美容室です。カットのテクニックがとても素晴らく、スタッフの皆さんは親切です。しかし、ここで問題なのが、海外に比べて値段が驚くほど高い!ということでした。学生としては悩むところしたが、必ず「ありがとうございました」というハガキを送ってくださるのでうれしくなり、今でも千葉から渋谷の美容室まで通っています。まさに“おもてなしの文化”の力に魅せられました。

 二つ目は、学生生活を通じて周りのみんながアルバイトに多くの時間を費やしていることです。東京という世界的に見ても物価が高い土地柄ということも関係しているのかもしれませんが、むしろ自分の都合よりもアルバイト先の都合に合わせて働いているんです。果たして「バイト」とは一体何だろうと、「バイト」を経験するために僕もバーテンダーのアルバイトを始めました。しかし、週に何時間もアルバイトに時間が取られているにもかかわらず、待遇は全くと言っていいほどよくない(笑)。だから多くの学生は少しでも出費を抑えるために割引クーポンを入手しようと一生懸命ポイントを貯めているんだなと気付きました。ポイント文化はロシアにはあまりないので僕にとっての驚きでした。

 そして三つ目は、SNSの活用方法です。ロシアだけでなく欧米人はイベントや旅行などを通じて「自分」を投稿しますが、日本人は飲食店の料理やネイルサロンの仕上がりなど、「自分」より「日常的に消費している商品やサービス」を投稿しているんですよ。これは、一般的に控えめで自己抑制的な国民性を持つ日本人が、自己主張や自己演出が欧米人に比べて苦手なためにインターネット上で顔を出さないことにつながっているのかもしれないと考えさせられました。


―発見をヒントに『Like Pay』を創業

 日本人にとって当たり前かもしれないことが僕にはヒントとなりました。人気の飲食店に行列を作ったり、みんなが持っているものを買ったりする「同調行動」をはじめ、前述のような思考が僕にとっては新鮮でとても魅力的でした。そこで、学生の懐事情をサポートし、かつ、飲食店、美容室・サロンなどのお店の販促手段としても活用できれば、双方がWin-Winになるとひらめき、「いいね!」の数を割引ポイントにする『Like Pay』を思い付いたというわけです。

 『Like Pay』は、InstagramやTwitterなどのSNSに飲食店・カフェ・美容室・ネイルサロン等で撮った写真をそのお店のハッシュタグを付けて投稿すると、その投稿に付いた「いいね!」の数の分だけ次回以降に割引が受けられるようになるサービスです。「いいね!」の数が多ければ多いほど割引率も高くなり、ユーザー、特に学生にとってはお得なサービスかなと思います。また、「いいね!」が付くとアプリ内で即換算されるためすぐに利用することが可能です。一見ユーザーにとってお得なサービスだと思われがちですが、実はお店側にもメリットが生まれるような仕組みとしています。一般的に飲食店や美容室などの小規模なお店は、3年以内に7割以上が倒産しているというデータがあるほどで、その理由の大半は集客の難しさだと言われています。

 『Like Pay』を使えば、割引を求める幅広い層がSNS上で拡散してくれるため、莫大な広告費をかけずとも幅広く販促活動に生かすことができます。実際に店舗側に発生する費用としては、『Like Pay』の割引を使って支払われた金額の3%を基準値としており、お店ごとに商品やサービス単価を考慮して使用できるポイントの上限数設定できるようにしています。リスクがなく利益が出る範囲でプロモーションができるため、お店側はすぐに販促活動として利用することができます。また、ユーザー視点を軸に置くプロモーション設計は、顧客と良好な関係を築くことができるこれまでとは違う広告の形ではないかと思っています。


―素敵なストーリーをたくさん生み出したい。

 現在は、主に東京にあるエステやネイルサロン、レストラン、カフェなどに利用されることが多いですが、将来的にはアパレルやホテル、観光地、エンターテインメントなども視野に入れ、地方にも広めていきたいと考えています。実はつい最近、代理店と協力して北海道から顧客を開拓することに決めました。都市部、特に東京にはすでにたくさんのサービスやお店が存在していますが、つまり、かなりの激戦区であるといえます。地方は東京に比べて人口も少ない上にこのようなお店や便利なサービスも少ない。ともすれば、人口減少によりますます集客に苦戦が強いられている地方にとって、『Like Pay』が困りごとを解決する手段となり得るかもしれないし、便利だということが広がれば全国展開も夢ではないと思っています。

 とにかく今は『Like Pay』の普及を一番に考えていますが、さらなる発展を目指すには、現行のお店から発生する手数料以外の新たなマネタイズの方法も模索していかなければいけないと考えています。まだジャストアイデアですが、とにかくたくさんの人に便利さを体験してもらうことで消費者動向のデータを蓄積し、投稿内容やハッシュタグなどのデータから分析するデータビジネスにシフトチェンジできるかもしれないですね。そうすれば店舗にかかる手数料を将来的には0円にして極力負担を軽減してあげることができるかもしれないので、惜しまれながら閉店したようなお店も生き残ることができるかもしれない。

 日本には世界に誇るべき素晴らしいモノがたくさんあります。豊かな食文化、おもてなし、時間の正確さ、風土、美しい四季、国民性――。挙げ始めたらきりがないほどです。でも、日本人はあまりそういう風に考えてないでしょう?だから、日本独自の素敵な文化やサービスをまずは日本の人にもっと気付いてもらいたい。例えば、僕が日本に来て初めて出会った美容室のように、日本独自の文化を継承したお店からお客さんとの素敵なストーリーがその数だけ生まれたら素敵じゃないですか。そして、そういう社会の実現に少しでも貢献できたとしたら『Like Pay』の創業者としてとてもうれしく思います。

創業者 ヴォロシオフ・イーゴリ氏