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蚕で「タンパク質危機」を解決!?

エリー株式会社  CEO 梶栗 隆弘氏

 増え続ける世界の人口――。このペースで人口が増え続けると地球は確実に食糧危機に陥り、私たちの重要なタンパク源が不足する「タンパク質危機」が訪れる可能性があると予測されている。2013年には国連食糧農業機関(FAO)により、解決策の一つとして栄養価が高く生産効率のいい昆虫類の活用を促す報告書が発表された。こうした中、新たなタンパク源の研究開発に乗り出すスタートアップが国内外において誕生し始めている。


―蚕を原材料にした機能性昆虫食「シルクフード」

 当社は2017年に蚕を原料とした機能性昆虫食「シルクフード」を開発するスタートアップ企業です。現在は、京都大学や東京大学と研究を進めながら商品化に向けて事業を進めています。昆虫の中で「蚕」に着目した最大の理由は、日本は世界に先駆けて蚕の研究が進んでいるからです。かつて日本は養蚕大国であったため、日本における養蚕の歴史はなんと2,000年にも及び、その研究成果が日本にはあります。当然、量産方法は確立されていますし、遺伝子や生物学的研究も進んでいます。そこに当社が食品としての機能や栄養、美味しさといったようなアプローチを加えることで、養蚕動物である蚕を新しい食品としてリノベートできると考えています。

 当社の研究では、蚕には機能性候補物質が3,000程度も存在していることが分かっています。現時点では、パーキンソン症状の抑制効果があるL-ドパや腸内環境を整えるグルコン酸などの機能性成分を特定していますが、これは、3000分の100にしかすぎません。残り2,900の候補物質の中には、まだ世界で明らかになっていない未知の機能性を含む可能性も多分にあり、大きな期待が寄せられています。

 また、生産効率という観点から見ても蚕は優秀な生物です。特に「場所」を必要としないことは大きな特徴となります。多少の重なりは問題にしませんし、行動範囲が狭いため、逃げ出すこともありません。また、コオロギなどと違って共食いもしないので小スペースで多くの頭数を飼育することが可能です。限りある地球資源において場所を必要としないという点は重要なポイントだと考えています。


―食品としての蚕の価値

 現在の昆虫食市場は、主に動物用の飼料と人が食べるための食品に分けられ、更にタンパク質補給を主な目的としている商品とそれに加えて高い機能性を持つ商品に分類できます。世界のスタートアップ企業がこぞってコオロギやハエなどさまざまな昆虫を活用した食品や飼料を開発していますが、その中で当社は食品で、かつ高機能性の製品を開発する数少ないスタートアップ企業だと自負しています。

 昆虫食の普及が進まない理由のひとつに、昆虫特有の「味」があります。かつて日本でも昆虫は貴重なタンパク源として食べられていました。しかし、「食」に味や香りといった嗜好性が求められるようになる過程で昆虫を食べる頻度が減少していったという経緯があります。近年は、嗜好性に加えて健康増進や病気予防、加えてエシカルなどの新たな需要も生まれています。

 当社では、こういった近年の「食」需要に蚕が合致していると考えています。蚕は高タンパクで低糖質、かつ「機能性」を豊富に含み、栄養価が高い生物です。さらに味も格段に良い。この可能性に溢れる蚕をより美味しく、より普及させるために、大学や大手企業、自治体などと積極的に連携し、オープンイノベーションを活用した事業を進めています。

 大学の研究では、蚕の機能性研究の他に、味・臭気、物性の改良のほか、機能性を最大化させるための品種改良や飼育研究を進めています。大手企業と実施したアクセラレータープログラムでは、キリンホールディングスのリソースを活用し、テスト商品としてスープやドレッシングを開発しました。このほか、伊藤忠商事との協業では、同社の持つネットワークによって群馬県の企業や団体と養蚕業の再発展を目指した取り組みを開始しています。先日は、群馬県庁や地元メディアを巻き込んだ「シルクフード」のフルコースの試食会を開催し、普及に向けた一歩が踏み出せたと実感しています。


―蚕で世界の食糧問題を解決

 蚕の素晴らしさをたくさん語らせてもらいましたが、一般の人にとってはまだまだ抵抗感のある食品ですよね。昆虫食は将来の食糧不足解決の糸口として期待されているものの、特に日本は社会・倫理的な消費市場がまだまだ小さく、どのように普及させていくのかが課題です。2019年度中には、商品を発売し、いくつかの施策を試す予定なので期待していてください。

 想像してみてもらいたいのですが、例えばエビやカニを最初に口にした人はすごいと思いませんか?見た目的にはかなりの抵抗感があったと思います。また、最近では外国の方が生魚や生卵、納豆だって口にすることも珍しくなくなりましたし、日本でもパクチーがブームになったりと、様々な食文化が交錯しています。ほかにも、ユーグレナのミドリムシなど、これまでは考えられなかったものが新な市場を創っていることからもわかるように、僕たち人類は、最初は考えられなかったようなものでも食品として受容することで食文化を発展させてきました。

 東南アジアや中国、韓国、それこそ日本にも、地球上には蚕を食す文化が少なからず存在しているので、違和感なく受け入れられる世界を創ることもできるはずです。実際、欧米では昆虫食の普及は少しずつ進んでいます。それが一般的になれば、世界の「タンパク質危機」を救うことも夢ではないはずです。そして何より、約20万年に及ぶ、原人類の飽くなき「食」を追求した成果である現代の「食文化」を更に発展させることができると思っています。かつて、古代中国と西洋を結んだ交易路シルクロードを通じてさまざまな食糧や文化がもたらされました。日本発の新たなシルクロードとして「シルクフード」を世界に発信し、持続可能な食の未来と次世代の食文化を創っていきます。

CEO 梶栗 隆弘氏