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日本に魅せられて。

株式会社Like Pay 創業者 イーゴリ・ヴォロシオフ氏

 日本人からすると当たり前のことも、外国人の視点からすると「面白い」であふれており、日本には起業につながるアイデアやチャンスがあちこちに落ちているようだ。アメリカをはじめとする諸外国に比べると、起業家を取り巻く環境という意味ではまだまだ発展途上かもしれないが、昨今政府の推し進めているさまざまな施策によって緩やかではあるが、確かに変化しつつある。日本に住みたいという憧れを持ってロシアからやってきた学生起業家イーゴリ・ヴォロシオフ氏にとっても日本はビジネスのアイデアが止めどなく生まれる宝の山のようだ。

 イーゴリ氏は、東京大学大学院に在籍しながら“いいね!で支払えるアプリ「LikePay」”を昨年創業した期待のニューフェースである。モスクワ大学在学中に第二外国語として日本語を専攻し、日露学生フォーラムに参加するため日本を訪れたことで日本独特の文化に魅せられた一人だ。来日をきっかけに住みやすさと“おもてなし精神”に感銘を受けたイーゴリ氏の日本に対する興味はますますエスカレートし、ついには交換留学までも果たす。しかし、この頃すでに日本に心底ほれ込んでいた彼は、卒業後の進路としてモスクワでの就職が決まりかけていたにもかかわらず、日本をもっと知りたいという情熱が捨てきれずに東京大学大学院への入学を決めた。

 実際に生活してみると、日本は面白いことの連続だった。学生生活を通じてまず異様だと感じたのは、学生が本業の学問ではなくアルバイトに多くの時間を費やしていることだった。ロシアでは考えられない光景のようだ。また、東京という世界的に見ても物価が高い土地柄ということも関係しているのかもしれないが、週に何時間もアルバイトに時間が取られているにもかかわらず、待遇は全くと言っていいほどよくないのだ。それ故、多くの学生は少しでも出費を抑えるために割引クーポンを入手しようと一生懸命ポイントを貯めている様子を見て、日本が抱える長時間労働が日常化しているゆえんかもしれないと漠然と感じたのだという。

 また、消費行動を見てもロシアと決定的に違うものがあった。口コミなどで人気の飲食店に何時間も行列に並ぶなど、人と同じ行動を取る「同調行動」が多く見受けられることや、SNSの投稿内容や活用方法がロシアとは全く異なっていた。ロシアだけでなく欧米人はイベントや旅行などを通じて「自分」を投稿するが、日本人は飲食店の料理やネイルサロンの仕上がりなど、「自分」より「日常的に消費している商品やサービス」を投稿している。これは、一般的に控えめで自己抑制的な国民性を持つ日本人が、自己主張や自己演出が欧米人に比べて苦手なためにインターネット上で顔を出さないことにつながっているのかもしれないと、現サービスのヒントとなったそうだ。それだけではない。ビジネスの側面においても「ビジネス」と「プライベート」を分けて人間関係を考える欧米人に対して、日本人は人間関係をひとまとめにして考えるタイプの人が多く、自らSNS上の人間関係を複雑にしているようにも思えたのだという。

 日本独特の価値観が、俗にいうSNS疲れを引き起こす原因であるとするならば、日本人にマッチするソーシャルメディア運用ポリシーをサービスに埋め込んでみてはどうだろうかという考えが頭をよぎった。料理、ネイル、髪型など、日常的に消費する商品やサービスの魅力的な写真を投稿しているにもかかわらず、場所や店名などの情報は掲載されていないことの方が多いため非常にもったいない。ともすれば、ハッシュタグで店名を明らかにし、投稿のクオリティーを高めるために「いいね!」の数を基準にすれば広告としても有益ではないか。国際社会を生き抜くためには自己主張や自己表現が必要と言われはじめたが、イーゴリ氏は国際的にはマイナス要素といわれている日本独自の文化と国民性を逆手に取る発想で「Like Pay」を誕生させた。まさに発想の転換からイノベーションが生まれたのだ。

 我々日本人からするとSNS一つとってみても、独自性や傾向は全くと言っていいほど気付かないものである。しかし、そこに新たなチャンスが眠っていたとは目からうろこであった。「失われた20年」と呼ばれた平成という時代が終わりを告げた日本では、景気回復に向けた再出発として外国人労働者の受け入れや起業活動の支援に力を入れている。今後ますます国際化と異文化間交流が進むと予想され、イーゴリ氏のような外国人起業家がどんどん存在感を増していくことは間違いないだろう。島国日本にも「新たな視点」を迎え入れる時が来たのだ。助っ人外国人とともに国際競争の激化する時代を切り開き、黄金の国ジパングとして返り咲くことができるのだろうか。