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IoTで「がんばらない介護」を支援するZ-Works

株式会社Z-Works(ジーワークス) 代表取締役 共同経営者 小川 誠氏

新しい価値やビジネスモデルの創出を目指す領域のキーワードとして耳にすることも珍しくなくなったIoTであるが、いまだIoTを活用したビジネスに乗り出す動きは活発なようだ。一口にIoTと言っても無線通信、クラウド、各種センサーなど、支える基盤は広範囲にわたるため、技術開発からデバイスの生産まで多額の費用と人的リソースが必要となる。革新的なビジネスを構築するためにはさまざまな障壁を乗り越える必要があるわけであるが、富士通、インフォコム、キヤノンなどをはじめとする大手企業と積極的にパートナーシップを組み、IoTシステムで介護の業界に「がんばらない介護」として新たな介護の風を巻き起こしたのがZ-Worksだ。

―積極的に 大手企業と のパートナーシップを。

 “IoT”と言えば、ホームセキュリティーやスマートホームで人々に便利な生活を提供するものをイメージする人が多いと思いますが、当社は「IoTデバイス」「インテリジェンス」「統合プラットフォーム」で構成される独自のクラウドサービスを通じて、「介護」の市場におけるIoTの実現を目指しています。当社が手掛けるサービスの中でもとりわけ注目を集めている介護施設向けのIoT介護支援サービス『LiveConnect Facility』は、被介護者の心拍数や呼吸数、体の動きを非接触で検知できる心拍計センサーのほか、ドア開閉センサー、人感センサー、照明センサーなどを組み合わせることで健康状態や行動をリアルタイムで把握し、異常があれば介護者に通知する仕組みとしています。ベッドからの転落など事故が起こる前に危険を予測するため重篤化が防止でき、また、姿が映される監視カメラと違って文字やアイコンによって一目で状態が把握できるため、プライバシーの観点からも被介護者の抵抗感が少なく導入できる点が好評です。

 『LiveConnect Care』は、創業から間もない2016年に総務省のベンチャー企業支援制度「ICTイノベーション創出チャレンジプログラム(I-Challenge!)」に採択され、2017年の夏には大手介護事業者を中心に約120超の介護施設に導入されました。介護施設における業務効率化と被介護者の安全性向上に機能しているだけでなく、在宅介護においても、居宅介護サービスを手掛ける株式会社やさしい手を通じて、状態把握や安否確認などができる『やさしい手LiveConnect(YLC)』の提供を開始する運びとなりました。

 そのほかにも、キヤノンマーケティングジャパンやインフォコム、東京電力、富士通、野村ホールディングスなど、これまで大手各社が主催するさまざまなアクセラレータープログラムやコンテストにエントリーし、積極的に大手企業とパートナーシップを結ぶ戦略を取ってきました。IoTシステムは技術開発からデバイスの生産まで多額の費用と人的リソースが必要となるため、経営資源の豊富な大手企業と協業を重ねることによって、実証実験や資金調達の機会を得ができたのは、企業の成長を加速させる上でとても助かりました。介護に対して当社と同じ課題意識を持った多種多様な大手各社から手を差し伸べていただいたおかげで、『LiveConnect Care』の礎を築くことができたと感謝しています。そして、要介護度の高い入居者の多い特別養護老人ホームをメインターゲットとした『LiveConnect Facility』を直販モデルとして2018年9月にリリースしました。


―自身の経験から「がんばらない介護」をコンセプトに起業。

 私はこれまでの人生で約15年間にわたって4人の家族を介護し、長い期間にわたる在宅介護生活を送った経験を持っています。このときに、介護はする側もされる側も苦労や負担が多いことを痛感し、いつでも、どこでも、誰でも楽に被介護者の見守りができるシステムを普及させて介護労力に掛かる負担を軽減していかなければいけないという使命感に駆られました。前職ではスマートホームやホームセキュリティー向けのIoTデバイスを開発するメーカーに勤めていましたが、IoT技術こそ見守りや重篤化の予防など介護の分野でこそ役に立つ可能性があると考え、2015年4月に「がんばらない介護」をコンセプトとした株式会社Z-Worksを創業しました。

 この「がんばらない介護」とは、私自身が経験した長い介護生活が原点となっています。家族の中の誰かが寝たきりになり、それを誰かが介護をするようになると、生活の質が確実に落ちていくのを肌で感じました。それ以上続くと息切れしてしまい、まじめな人であればあるほど、介護する側も疲弊してしまうため、“がんばる介護”は2年が限界だと痛感しました。大切な家族であるが故に真剣に寄り添うことで介護する側が疲弊していたのでは元も子もありません。もちろん寄り添うことは大切ですが、介護にかける時間や労力を少しでも減らしていかなければ誰も頑張り続けることなんてできないんです。だからこそ、そこにIoTの技術を使い、センサーやICTを活用する余地があると考えました。

 介護現場では、排泄周り、食事の介助、介護記録、見回り・居室巡視、コール対応など、時間を要するさまざまな業務が発生しており、このような作業をIoTやAIに置き換えて負担を軽減することが可能です。センサーを使うことで居室状況をリアルタイムに把握し、異常があった際には介護職員のスマートフォンやケアステーションにアラームが通知されるようになれば、介護職員が何度も巡視せずともより高い精度で事故や症状の重篤化を防止することができるようになります。接触や重みがかかることで反応するマットセンサーなどのサービスも誕生していますが、私たちのサービスは「非接触センサー」を採用し、クラウドでデータを機械学習するなど行動を分析した上で通知するため、異常がなくとも接触するたびに通知する事態を避けることができ、介護する側もされる側双方にとって煩わしさや遠慮がなく受け入れられやすく、グループホームなどの施設にも広がりつつあります。


―「介護」という社会全体の課題をIoT技術で切り開く

 私たちは、業界に先駆けたIoTデバイスの調達やプラットフォームの構築を現時点においての付加価値としていますが、競合が増えて業界が成熟していけば、それだけで他社との差別化を図ることは難しくなると見込まれます。そのため、将来的には、カスタマイズ機能によって蓄積したあらゆる行動データやバイタルデータ(生態情報)などの介護ノウハウデータの分析を通じて『LiveConnect Facility』を進化させていくとともに、そこから付加価値を生み出していくデータビジネスへトランジションしていくつもりです。

 日本において介護産業は、2012年時点で約9兆円だったのに対し、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年には21兆円を超え、医療産業と生活産業を足せば100兆円を超えるという試算が出ています。「市場の拡大」と言えばビジネスチャンスのようですが、同時に「介護市場の拡大=介護が社会全体の課題となる」危険性をはらんでいます。少子高齢化が取りざたされている昨今、介護施設および介護職員の不足はますます深刻化の一途をたどることが想定されています。「介護離職者ゼロ」に向けた介護休業制度等の法整備がなされ、国が在宅介護を推し進めている状況にあっても利用率は依然低水準にとどまっており、すでに介護施設の不足や、介護離職の問題は避けられない事態となっています。

 これらは介護における課題の一例ですが、介護を取り巻く環境は深刻化の一途をたどっているのにもかかわらず、2018年上半期の「老人福祉・介護事業」倒産の四半期別では、2018年1-3月が18件(前年同期比28.5%増、前年同期14件)、4-6月が27件(同3.8%増、同26件)とそれぞれ増加。件数は上半期の前半と後半の単純比較で1.5倍(18→27件)に増加しており、その要因として同業他社との競争激化で経営力、資金力が劣る業者の淘汰が加速していることや、介護職員不足の中で離職を防ぐための人件費上昇などが挙げられています。特に、介護業界の人手不足は国内景気が悪い時の採用は順調ですが、好況になると人材が他業種へ流出するなど、景気と逆行する傾向が強く、とりわけ小規模事業者は業績低迷に、資金的な制約も抱えており、深刻な状況から抜け出すことが難しくなっているように思われます(※東京商工リサーチ2018年上半期「老人福祉・介護事業」の倒産状況)。

 IoTの神髄は「解析」できることです。介護の現場から収集し、解析したデータをIoTの技術によって今後の医療・介護業界の研究や、介護予防と健康寿命を延ばすための生活習慣の改善につながる事業に活用していきたいと考えています。介護に対する不安と負担がゼロになる社会を目指し、あらゆる人の生活の質を向上させることが大きな目標です。

髙橋 達也 代表取締役 共同経営者(左)、 小川誠 代表取締役 共同経営者(右)