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「人生万事塞翁が馬」

株式会社Sportip 代表取締役CEO 髙久 侑也氏

 Sportipの高久氏は、学生生活をかけていたといっても過言でないほど野球に打ち込み、甲子園や大学野球を目指すため昼夜練習に励んでいたそうだ。ところが、ある日突然運命の悪戯によって幼いころからの夢であった野球を諦めざるを得なくなってしまった。

 当時の彼には野球以外に何もなかった。これからどうすればいいのか――。目標を失い、あり余る時間に気が狂いそうになった。何かを失うと、人は「なぜそうなってしまったのか」ばかりを考えてしまう。彼の場合は「なぜ無理をして練習を続けてしまったのか。」だった。なぜなら、中学生の頃、胸郭出口症候群を発症してしまったにもかかわらず、指導者の経験に依存した指導の下、無理をして練習を続けた結果、急激な症状の悪化により野球を続けることができなくなってしまったからだ。

 当時はまだコーチングに関しては発展途上であり、指導者の勘や昔からの慣習によってトレーニング方法が決められていたため、恨み節とはいわないまでも、「もし正しいトレーニング方法を知っていれば」、「あの時大事をとって休んでいれば」――。このような喪失感を味わうことはなかったのにと後悔ばかりが頭を過った。しかし、マイナス思考に陥っていた彼の考えをのちにスポーツが変えることとなる。

 大学2年生の夏にさかのぼる。カンボジアのオリンピック・パラリンピック委員会とともに現地で障害者スポーツを普及させる活動に参加したときのことだ。障害のある方への偏見が今なお色濃く残る独特な文化の中において、スポーツを通じて多くの人々の考えが実際に変わっていく様や、楽しんでスポーツに取り組んでいる様を目の当たりにし、オリンピックが持つ「平和」と「寛容」という普遍的なメッセージの神髄を確かに感じたとともにスポーツの持つ無限の可能性を感じたのだ。その時の感情は忘れもしない。ふと雨上がりの空のように心が晴れやかになった。久しぶりのことだった。

 この活動が彼の考え方を180度変えたのは言うまでもない。選手生命は絶たれてしまったが、それなら選手をサポートする立場でスポーツ産業に新たな価値を提供しようと、そこから一気に起業の階段を駆け上った。そして、「それぞれの人間の体の特徴や目的に合わせた最適な指導」を最大のテーマにした、“動作解析を通じて個人の身体特性・データ・目的に応じたソリューション提供を行うシステム『Sportip AI』”の研究開発という挑戦を始めることとなったのだ。

 人生とは波乱万丈なものである。いつも追い風が吹いているとは限らない。上り調子のときもあれば、下り調子のときもある。時には激しい逆風の中を突き進んで行かなくてはならないのもまた人生なのだ。しかし、皮肉なことに逆風という困難に直面することがなければ、人は心の強さや自信を得ることもできない。信念を貫くということは、人生をかけて何かを見つけることかもしれない。